「靴磨き職人探訪記」 part7 Mr,Yuta Sugimura(Y’s shoeshine)

シリーズでお届けする「靴磨き職人探訪記」。世の中にはたくさんの素敵な靴磨き職人がいる!第7回は2019年の靴磨き世界選手権で優勝し、静岡でY's Shoeshineとしてご活躍されている杉村祐太さんをお尋ねします。

・杉村さん靴磨きはじめたキッカケは?

さかのぼると僕が高校生の時に始めて革靴を履き出してから、ふと他界した父が革靴を磨いていたな〜というのを思い出して真似をしはじめたときが最初でしたね。うちの父は典型的なA型ですごくキチッとしていて何でも片付けてしまうような人でした。なので頻繁に靴を磨いていました。そこで父が使っていた道具を引っ張り出してきて適当にミンクオイルがいいって言ってたな〜みたいな感じで使ったり。

コロンブス社の毛が短いブラシとかも入ってましたね。あっ!今なら笑える失敗談を思い出したんですが、その父の靴みがき道具をしまっている引き出しの中に万年筆のモンブランのインクが入っていたんですよ。当時それを万年筆用のインクなんて知らなかった僕はその青黒いインクを靴に塗るもんだと思っていたんです(笑)シャバシャバの液体をティッシュと布にとって靴に塗ってそのあとにミンクオイルを塗ったりしてました。でもなんか違くねーかなんて思いながら2回くらいやりましたね。それが人生最初の靴磨きの失敗でした。

そこで多分靴磨き道具を買いに行かなかったのは僕の父への憧れがあったからだと思います。背中を追いかけたかったんでしょうね。そのままミンクオイルで磨くことを高校生でも続けて、大学生になってアルバイトで稼いだお金で渋谷の丸井で初めて良い革靴買ったんですよ、ピエロみたな先がとがった靴を2万円くらいで買いましたね。で、その時に横に置いてあったのがサフィールノワールだったんですよ。それで冊子と一緒にクリームとワックスを買って、その冊子を見て「こうやってやるんだ!」っていうのを知りましたね。

あれは大学1年の秋でしたね。その冬に某ファッション雑誌でアンソニークレバリーのキャメロンというモデルを見た時に衝撃が走りました。なんてカッコいい革靴なんだ!とはっきり覚えています。でも当時の自分には全然買えなくて、そのときに永遠の憧れになりました。

そして就職活動をする時期になったのをきっかけに気合い入れて鏡面磨きをやり始めました。当時はまだ上手に出来なかったですけど靴は綺麗だったと思います。なので靴が綺麗だねって面接官からは結構褒められたりしました。その時に足元を褒められる気持ちよさを覚えました。多分かなり調子のっていたんで社長が汚い靴を履いていたらその会社には就職しないなんて思ってましたね(笑)だいぶこじられてましたね〜。それくらい足元には気には意識が強くありましたね。

大学卒業後は地元の建設会社に就職してお給料をもらえるようになってCrockett&Jonesをはじめ革靴をばんばん買ってました。渋谷のトレポスなどに通ってましたね。革靴のサイズ選びなど知識はまだなかったですがとにかく靴が好きでした。5~6足はC&Jを持っていました。なので僕にとって革靴も基本はC&Jなんです。Edward Greenとかは高級なので中古で買っていました。あとTricker’sは地元の洋服屋のSALEなど買いました。とにかく英国靴ばかりでした。その時に買った白いトリッカーズは自分で染めたりしてかなり実験台になってもらいながら今も愛着があって大切に履いてます。

当時やっていた仕事は現場監督だったのですが、かなりハードだったんで休みもなかったんです。そんな中でも革靴履いて磨くのが自分にとって憩いの時間でした。趣味としてやっていて鏡面磨きも出来るようになってきたんです。友達や上司の靴を磨いていたりもしていました。そんなある日に「靴磨きがそんなに楽しいなら仕事としてやってみたら」って言われたことがキッカケで小遣い稼ぎ程度に始めました。

それは社会人4年目終わるころでしたね。一番はじめは地元のセレクトショップで週末にお店の軒先を借りて始めました。そこから場所は適当で仕事終わりにフラッと三島駅と沼津駅とかの路上で靴磨きをしたりしました。意外と駅前路上でやるとけっこう来てくれるんですよ、5分くらいで磨かないといけないでいい勉強になりましたね。スピーディーな磨きとじっくり時間をかける磨きのそれぞれの良さを学びましたね。

そんな中で現場監督を続けていましたが本当は設計をやりたかったので設計士の資格をすべて取得しながら自分お希望の部署で働けるようになるために我慢して働いていました。数年が経過し県内の有名建設会社に出向があったり色々と環境の変化の中でやはり靴磨きがしたいと決意し2017年10月に退職しました。

数ヶ月後の2018年1月には銀座三越で開催された“第一回靴磨き選手権大会”に出ました。まだお店をはじめてなかった時です。その後にMENS EXのトークイベントで長谷川さんと石見さんと僕の3名でトークイベントをしたのも良い思い出です。余談ですが退職金で10年越しの憧れのキャメロンを買いました。靴磨き職人になってこれからその道で挑戦していくんだと決意して購入した一足です。

・杉村さんにとって靴磨きの魅力はなんですか?

靴磨きは心が洗われる感覚が一番の魅力ですよね。浄化というか。すごく言葉にするのは難しいですがあのリフレッシュ感、高揚感、満足感、その3つが揃うトキメキみたいな感じですかね。お客様が「こんなになるんだ」と言ってくれるあの感じはきっとそういうことですよね。

あと靴磨きって何度見てもやっぱりすごいよね〜っていう感動が魅力です。お客様が喜んでくれることがシンプルに一番嬉しいですね。喜んでくれる感情が一番嬉しいです。こんなに喜んでもらえるならという気持ちで磨いてます。そこに尽きますね。

・靴磨きのこだわりはなんですか?

僕のこだわりは毛穴を埋めるというよりは少し毛穴の目がわかるような鏡面磨きをしてるんですよね。その方法だと自分でもできそうだなって思われるんですけど、それって自分でやってみるとかなり難しくて出来ないんですよね。

この磨きは静岡で求められる靴磨きだと思っていまして、静岡県民は車にも乗るし歩きもするのでピッカピカじゃない自然な光沢+@くらいの仕上がりが静岡だと求められます。これが静岡スタイルの仕上がりだと思うんです。なのでぼかし(グラデーション)にかなりこだわりますね。さかえ目を作らいない磨き方は特にこだわります。なので真新しいJohn Lobbなんかは苦労します(笑)あの白くなる感じを上質な輝きにするのが難しいですね、ピカピカにする方が楽です。

あとは色ですかね、黒を磨くでも黒だけでは終わらせない。もちろん黒のみで終わらせるのが良い場合は黒だけですが、良く使うのがフォーン(明茶)ですね。フォーンを使うと黒が冴えるというか、黒に温かみが出るという感じですかね。冷たくない黒になるんです。黒ってギラギラしているので無彩色の中に色を入れると変わってくるんですよね。

フォーン以外ですと、グリーン、ネイビー、マホガニ—、バーガンディー、コニャックなども使いますね。ダークブラウンだけで磨ききることもあります。この色のチョイスはお客様の雰囲気によって変えてます。グリーンとかネイビーは黒の中に奥行きが欲しい時に使います。口数が多くない方やスーツの色味もダークスーツの方なんかにはよく使います。赤系は華やかな雰囲気の方に使います。派手な柄物が好きなお客様には使いますね。

・靴磨きしていて印象に残っているお客様はいますか?

本当にいろんな方がいらっしゃいますけど、移転前の店舗に来てくれた女子高生のお客様ですね。突然フラッときたんですよ。間違えたかな〜と思ったらパパの靴を磨いて欲しいとおっしゃったんです。すごい良い子だな〜なんて思っていたら「父の日で靴磨きをサプライズでプレゼントしたいんです」と。それでこっそり下駄箱から持ってきた靴を学生鞄から出したんです。今時っぽい女の子だったのもありびっくりして圧倒されてしまいました(笑)

ただその靴がなんとなく見覚えがあったんですよね、まあそんなことも思いながらカウンター磨きだったので色々と話を聞きながら磨いて感動して帰ってくれました。その翌日に久々にいらしたお客様が「昨日女の子来なかった?」なんて言うので「来ました来ました」って言ったらスマホでインスタ見せてくれてその女子高生のお父さんだったんですよ。その子のインスタでばれちゃったのでサプライズは失敗したんですけどめっちゃ嬉しかったですとお父さんが言ってました。あの時の笑顔は忘れられません、商売人の宝物として心に残っています。

・杉村さんといえば靴磨き大会2019年ロンドンで優勝した世界チャンピオンでもありますがその時のお話を聞かせてください。

いや〜、独特な雰囲気だったな〜。と、印象に残っていて日本大会とは全然違う熱気がありました。 あとどちらの大会も出てルールのが少し違うのですが、世界大会のSAPHIRのミラーグロスを与えられて20分片足というルールの方が難しいんじゃないかと思いました。

というのも左右両方あると右がこうだったから左はこうしようとか出来ますけど片方の場合はずっと触っているので水が染み込んで曇ってしまうのが怖くてこの20分間はすごく疲れましたね。ずっと息を吹きかける方法をとっていたのでそのために腹筋のトレーニングもしましたし辞めていたバスケも復活させて体も動かしたりしました。あとミラーグロスも3つくらい新しいのを買って革以外のいろいろなものを磨いて練習しました。

例えば木を磨いたり笑。LOAKE(大会で磨く靴メーカー)って結構ざらっとしてるじゃないですか。なので表面を磨きこんでいない木の板などを探して磨いたり、あとは鉄ですね。ざらざらした鉄を探して磨いていたり。一番練習になったのは陶器です。特にざらっとした鉢植えです。鉢植えって結構水吸うのであれは凄くいい練習になりました。結局鉢は鏡面磨き出来なかったんです。良いところまで行くけど剥がれてしまうんです。革よりも固いのでそれで剥がれてしまうんですよ。鉢植えを磨いた後に靴を磨くとめちゃめちゃ磨けるんですよ(笑)そんなトレーニングを積んでいました。

あとは仕上がりのバランスを良くするためにインスタで色んな仕上がった靴を見て、そのアカウントがどこの国の人なのかを調べていいね数を調べて外国人受けする光沢のバランスを研究しました。やっぱり外国人って全体をギラギラさせるっていうのがあって、それは現実的に使い物にならない靴磨きだなと思ったので使い物になる最高の光沢、色遣いをずっと考えていましたね。

・最後に杉村さんがBrift H製品で一番好きなものは何ですか?

そうですね〜、僕はTHE WAXのライトブラウンですね。ミラクリとかTHE CREAMも大好きで挙げたいですが、THE WAXのライトブラウン色と質感が大好きでよく使ってますね。

名脇役という言葉がぴったりの製品だと思います、どんな色の靴でも革の色に影響しないしライトブラウンの色味がよいので元の革の色の補助をしてくれると思うんですよね。その力はすごい助かってます。SAPHIRのフォーン色にはない力をTHEWAXのライトブラウンは持っているんですよね。

靴磨きに対するこだわりや練習法など普通の人にはない感性をたくさん持つ杉村さん。自分なりの靴磨きのスタイルを確立し実践している姿には強く刺激をもらいました。

静岡市にはサウナ好きの聖地と呼ばれている”しきじ”もあります。ぜひ静岡に靴も体も整えに行ってみるのはいかがでしょうか。

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