「靴磨き職人探訪記」 part16 Mr, Ryu Niita(Brift H)

シリーズでお届けする「靴磨き職人探訪記」。世の中にはたくさんの素敵な靴磨き職人がいる!第16回は皆様も記憶に新しい、靴磨き選手権大会2023チャンピオンのBrift H 新井田隆です。

・靴磨き職人になったきっかけを教えてください。

キッカケはREGALに勤めていて革靴にのめり込んだことから始まります。当時高校を中退して職探しをしていた僕は18歳のタイミングで学歴不問の仕事を探していました。その時に見つけたのがREGALでの販売の仕事でした。旭川にあるREGALの店舗で働いたのですが正直靴が好きで始めたとかっていういうのは全然ありませんでした(笑)。

入社してからREGALの新人研修で靴の作り方やシューケア、接客など一から基本を学ばせて頂きました。”カーフ”、”キップ”など今では当然のように使っている用語も全てそこからがスタートでした、色々と研修で習った内容がそのまま接客にいきて販売に繋がるっていうのが当時はとても面白く、勉強した分結果につながるという成功体験がとてもやりがいを感じました。

研修の最初の段階で”革靴は手入れをすると10、20年履けるんです”っていうのがセールストークとしても教わったことで、それを聞いた時にフワッと「その考え方って良いなって」思ったんです、とても印象に残りました。どんどん知識を蓄えていくうちにREGALの靴だけではなく、John LobbやEdward Greenなど世界中の靴を知っていったんです。そこでより革靴の世界にのめり込みました。革靴の世界って深くて広いな〜と思いもっともっと勉強したい!って思いました。

僕は何か一つの事に熱中できることを望んでいて、この仕事って一生続くかな?って考えていたタイプなんですが、革靴の世界は一生やっていけるなってその時に思いました。そこから革靴の世界で販売以外に”靴作り”、”靴修理”、”靴磨き”という3つの選択肢があるなと思った時に、自分の中でいろんなブランドの靴を見たり触ったりしたいなと強く思ったんです。そこはREGALという一ブランドに勤めていて自社製品以外には携われないというジレンマもあったからかもしれません。

最初は靴ブランドを転々として働こうかと思ったのですが、靴磨きがもし職業として成立するなら一番いろんな靴を触れる職業だなと思ったんですよね。その中で靴磨きを仕事にできるところってあるのかな〜と思って調べ始めました。自分のイメージは街中にある小さなお店とかしないかなと思っていて、仕事にしたいけど仕事にできないんじゃないかなと考えていました。

そんな時にたまたま長谷川さんの靴磨き動画を発見したんです。”やっている人がいるんだ!”と知りピンときた感覚でした。それが2010年頃だったと思います。それがBrfit Hを目指すきっかけになりました。働きたいと思ったのですが当時はまだ19、20歳で若かったので通用しないかなと思いまずは独学で靴磨きを練習するようになりました。

REGALで学んだ以外に雑誌や書籍、2ちゃんねるで靴磨きの情報を調べていたり、REGALの本社に行くときに東京の靴屋さんなど見て廻ったりして北海道だとなかなか見れない色んなブランドの靴や革を見に行ってました。ノウハウ的には長谷川さんの動画でやっている磨きを真似してました。それ以外に自分なりの自由研究に時間を費やすことが多くて、染料を買って革の端切れに染み込ませたり、革を冷やしてみたり温めてみたり色んな靴やクリームで試して実験を沢山していました。

自分なりに水洗いしたり一つ一つ試して知って、みたいなことをやっていました。そんなこんなで時間と共にやりたい気持ちがどんどん強くなっていきました。ずっと北海道に居たままではいかん、どこかで飛び込まないと始まらないなという想いになってBrift Hへ手紙を書いて履歴書を送りました。ちょうど職人募集のタイミングと重なり入社して靴磨き職人として働き出しました。

東京に引っ越し働き始めた最初は全てが新鮮で初めての経験だらけでした。当時のBrift Hは想像以上にアットホームで部活みたいなノリでした(笑)。夢中でついていくのに必死だった時代で、今思い返すとついていけてなかったなと思います(笑)。みんなでいろんな店を廻って、あーだこーだ言いながらミーティングしていろんなことを決めていったり、ベンチャー感が今より濃かったです、あとお店にいらっしゃるお客様が強烈な方が多くてはじめは圧倒されました。入社1週間前なのに当時の先輩にお得意様のJAZZライブがあるから行こうって誘われて行ったり(笑)。

入社して最初の一ヶ月間は事務仕事を覚えるところからはじめるので靴は磨けなかったですが早く革靴を触れるようになるために早く仕事を終わらせるというのを最初の三ヶ月くらいは考えていました。磨きに入れるようになってからはある程度基本ができていたのもあり先輩方から微調整をして頂きました。鏡面磨きの部分はBrift Hの基準があるからと一日中一緒に教えてもらったんですが最初は一日に2、3足しか仕上げられなかったですね。

その後は日々の磨きの中でチェックしてもらっていました、当時は先輩がカウンター磨きをしている横についてどういう会話をしているのか、どうやって磨いているのかを見て学ぶというスタイルだったのでその時間で沢山吸収していきました。

三ヶ月経ったくらいのある時に心が寛大なお客様がいらしたタイミングで先輩から「新井田君磨いてみよう」と突然デビューが決まりました。カウンターデビューの一足はスコッチグレインのキャップトゥの靴でした。元々カウンター磨きのイメージは出来上がっていたので最初から自信あったのですが実際磨き始めると会話や靴のことを考えながら磨くのが難しくて思う通りにはいきませんでした。でも楽しかったです。

今振り返ると昔に自分は全然見えてなかったなと思います。デビュー後にいろんな方の靴を磨かせてもらいましたが、その時はファンになってもらおうとか全く考える余裕はなくてただただBrift Hの基準についてこうという事に必死でした。ちょうど2年目入ったときくらいにある方のお誘いで札幌の近歩道での靴磨きイベントに誘われました。その時に故郷である北海道で靴磨きができてしかも大盛況で終えられた時に靴磨き職人として少し認められたと思えました。

・靴磨きのこだわりはなんですか?

磨く靴や革に合わせて常に磨きの方法を変化させているのですが、それは感覚的ではあるものの何故そうしたか聞かれればきちっと答えられる磨きを行っています。きちんと説明が出来ることでお客様に安心して頂けるということもありますし、安定感のある磨きに繋がってくるので理由は大切にしています。

会話の中から仕上がりのイメージを作り上げていってまして、ツヤ感一つとってもお客様のテンションに合わせて変えたり、履いた人に似合う磨きを意識しています。履いた時に「かっこいいね〜」「可愛いね〜」ってなるように心がけています。お客様の仕事や履く状況、ライフスタイルがとても重要なのでそういったところを聞いた上で提案させていただいて磨きをしています。

そういう意味でもお客様が気づくか気づかないとところでちょっとしたこだわりがあるんです。大変烏滸がましいのですが、その方の僕なりに感じる伸び代、少し背伸びしたより良くなるためのことを考えて僕の感性を乗せています。それを磨きの中でどう取り入れたかは言ったりはしないのですが(笑)。

目上の方には尊敬や憧れを感じることが多いので逆に光沢を抑えたり少し色味を変えたりしますし、少し元気がない方には明るい色で仕上げたりもします。あるホストのお客様の黒靴にはあえてミッドナイトブルーを使って磨いて基本お店は暗がりで見えないとは思うんですけど「青く光る黒靴を履くホストなんて他にはいない、オンリーワンですよ!」って伝えたりしています(笑)。

・印象に残っているお客様や靴はありますか?

古いお客様ですがKさんというジョンロブをたくさん持っている方がいたのですが、その方のジョンロブは昔のミスティーカーフの靴が多くて磨かせていただくと革がトロッとした素晴らしい感触だったのでその手の感触は今も忘れられません。革も良いのですが当店で長らく磨き込まれていたのもあったので革の育った靴に感動しました。最近だとパトリックフライの靴の形状がすごく個性があってセオリーと全く違う形で指を動かして磨いたのがとても面白かったです。それも手の感覚でしたがとても違和感を感じる形状でした。手に取るととても軽いのも印象的でした。

人生のきっかけになれたかなと思ったお客様ですと、転職前に磨きに来ていた方で転職に迷っている話をしてくれたんです。人生の中で勇気を持って挑戦をしたことがないということをおっしゃっていて、後日今度は面接前に靴を磨かせてもらい最後に「僕が磨いた方で今まで面接に落ちた人はいません」と言いました(笑)そんなことがあったある日に合格したと報告しに来てくれました。その時におっしゃっていたのが合格の後に人事の方に合格理由を聞いてみたら「靴が綺麗だった。」と言われたたのことで、実際に足元って大切なんだなっていうのを実感した瞬間でした。

・靴磨き選手権大会2023での優勝と今年の挑戦について

2023年大会での優勝に関しては靴磨き職人としてスタートラインに立ったなという感覚です。Brift Hとして従業員でもあるのですが僕個人に興味を持ってくださる方が多くなったので本当の意味での”靴磨き職人”という気持ちなりました。心境の変化としてもより一層チャレンジし続けなきゃいけないなっていう気持ちになっています。

いざ目標が一つ叶ってみてそれまで”叶った自分”が想像できていなかったのですが、ここからが本当に自分がやりたいことを挑戦していこうと思っています。それもあって2024年の靴磨き選手権にもエントリーしました。意気込みとしては昨年優勝したことですごく職人としてのあり方を考えるようになったので、今大会でのパフォーマンスや立ち振る舞いや技術に関してみんなが想像できない新しいものを見せれる自分になりたいなと思っています。

・Brift H一番のおすすめ製品を教えてください。

クリームかクリーナーなのですが、THE CLEANER for mirror shineこと”ミラクリ”です。

理由としてはミラクリは靴磨きを繰り返しするために一番適しているとクリーナーだと思っていまして、革への負担が少ないというのが1番のお気に入りポイントです。しかもよく落ちるというのも好きなところです。特にcordovan製品にはぜひ使って欲しいですね、cordovanの繊細は表面を痛めずに厚塗りしたワックスも落とすことができます。液体系のクリーナーではすごく気を使わないといけないんですが、ミラクリなら誰でもしっかり鏡面を落とせるクリーナーなので初級、上級者選ばず等しく使えるのでおすすめです。

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