「靴磨き職人探訪記」 part15 Mr, Yuta Ohira(CHETT)
シリーズでお届けする「靴磨き職人探訪記」。世の中にはたくさんの素敵な靴磨き職人がいる!第15回はCHETTの大平雄太さん。少年野球時代に革をお手入れすることに目覚め、自分の店を持つまでになった大平さん。靴磨きへの情熱は甲子園球児のような熱さを感じます。素敵な人柄と技術の秘密をぜひご覧ください。
・大平さんが靴磨きをはじめたきっかけは?
僕が靴磨きの仕事をはじめる根っこには少年野球をやっていたことが大きなきっかけだと思います。小学校3年生からやっていたのですが、僕のいた少年野球のチームがスパイクとグローブが綺麗でないと試合に出させてもらえないという厳しい決まりがあったので毎日磨いてたんです。そのまま中学校も野球を続けてそこでも道具は綺麗にしないといけないのは一緒だったので自然に手入れするのが自分に身についてました。
その頃はイチロー選手の哲学にも影響を受けていて、使う道具が綺麗な方が結果につながるというあったのでイチローのように道具のメンテナンスにはかなり力を入れていました。野球やっている人なら分かると思いますがスパイクなんてスライディングしたら一瞬で綺麗なのなんて終わるですよ(笑)。でも野球は汚くなってなんぼなんで、毎晩玄関で綺麗に磨いてましたね。チームの中でも「大平いつも綺麗だね」っていうのも言われていて、その頃から綺麗にするのが好きになっていました。
性格的にもまっすぐなタイプなので綺麗にしたら監督に褒められたりして、、、磨くだけではなくバットとか物をそっと置いたり大切に扱うことも同時に身につきました。高校野球の頃には道具にもこだわるようになっていろんなメーカーのローションを使ったりブラシを使っていました。でも基本的にはKIWI製品が多かったですね。
革製品のお手入れという意味では野球の影響が大きったですが、一方で高校時代の友人の影響で古着ファッションに陶酔していきました。それがきっかけで革靴に出会いました。高校卒業後に専門学校に進学するために地元の埼玉から町田に引っ越してデザインの専門学校でプロダクトデザインを学んでいたんですが、町田は古着屋も多いしデザインの専門学校なのでオシャレな友達も周りに多かったんです。
専門学校を卒業後に携帯電話の試作のデザイン会社に就職。そこでは僕は携帯電話の試作模型の塗装をする仕事をしていました。指定された色を自分なりに調色して塗装するという職人のような仕事をしていました。やりがいもあり先輩も良い人が多い良い会社だったんですが体調を崩して1年半くらいで辞めてしまいました。
その後入院して身体が健康になって次の仕事をどうしようかと考えた時に古着が好きだったので洋服を探したらジャンブルストア(現セカンドストリート)のオープニングスタッフ募集を求人しで見つけて応募して働くことになりました。そこは洋服専門のリユースショップなので買取と販売を主にやっていました。
ジャンブルでは幅広い洋服を沢山触れる機会が多くゴリゴリのヴィンテージのLEVI'Sや最新のLouis Vuittonも来たりと、とても勉強になりました。ジャンブルで店舗を移ったりしながらアルバイトを2年くらい経験した後に正社員になりました。
そこで最初に勤めていた店舗でレッドウィングの靴磨きキットが置いてあったんですが買取などで忙しい合間を見て店頭の靴を磨いていたりしました。その頃は自分の革靴は自宅で手入れは好きでしてましたね、その時買ったホワイツなども今でも履いてます。
社員になって4、5年目の時に新規出店の部署に移りました。そこでの仕事は主に新店舗をオープンする前のプレオープン時に2週間前から買取を始めるんですけどその担当をやっていました。その頃からですね、革靴のリユースの仕事をしたいと強く思うようになったのは。
頭の中に漠然とですが自分が革靴に囲まれてるいるようなお店を作りたいと考えていました。そこからそっちに意識が向いて日に日にその想いが強くなり直属の上司に「革靴の仕事するので辞めます」とあてもなく退職しました。自分で買い集めた20足くらいの革靴だけで独立を決意しました(笑)。
まずはネットから始めようと思い、葛飾区のお花茶屋で家賃3万円の家に住みながらオフィス兼で運営していました。それが2017年です。その時にCHETTが立ち上がりました。ちなみにCHETTの意味はCHET ATKINSというギターとベースを同時に奏でて音楽を作る昔のアメリカのミュージシャンの名前が由来になっています。
1つの仕事で2つ3つできた方が良いよねって、例えば靴磨きだけではなく修理とか買取とか販売とか。それに加え屋号にはCHURCH'SやCHEANEYのブランド名にあるようにCHを付けたいというのもありましたし、CHがつくとどこか名前の響きが優しくなると思うのでそれも決め手でした。
元々はCHETだったんですが一緒に”Together”、明日を”Tommorow”作っていきたいという想いを込めてTを一文字増やしてCHETTになりました。
靴磨きを真剣にやり始めたのはこの時からですね。自分の事業で仕入れた靴を磨いたり修理したりしながら、YouTubeで鏡面磨きの動画を観たりして。最初鏡面磨きを見た時は衝撃的でした。鏡面磨きの練習をするようになってから学生時代からの友人K君が厳しくチェックをしてくれました。K君は靴修理職人をやっていたのもありかなり厳しくて「それ鏡面じゃないんじゃない」なんて言われながら特訓しました(笑)。
独立と同時くらいにリユースショップが自分の靴磨きの技術を買ってくれて革靴専門で販売と磨きの仕事も始めました。二足の草鞋を履きながら自分のWEB SHOPでも郵送の靴磨きも始め、リユースショップでは1足1,000円で1時間かけてフルハイシャインで承っていて、1日平均7〜8足は磨いていました。その時の経験が完全に今の自分を作り上げました。
沢山のブランドを知りましたし、ぶっちゃけその頃までジョンロブ、ベルルッティ、エドワードグリーンとかドレスシューズブランドのことは知りませんでしたから(笑)。
今の店舗がOPENしたのが2019年10月ですが週末だけOPENするお店として運営をしていました。現在のようにフル営業になったのが2023年10月です。古着が好きで革靴が好きでやっていたら今に至るという感じで、靴磨き職人なろうと決意して始めたというよりは周りから認められていつの間にか靴磨き職人として生きる方向に変わっていました。
・大平さんの靴磨きのこだわりは?
基本的には革が長持ちする磨きをしたいと思っています。そのために時間をかけてやることが多いです。細かいところまで見て磨きますしクリームも何種類も使って磨きます。乾燥している革にはデリケートクリームなどの水分が多いクリームを多く使ったり、コードバンの場合は毛ばたちを寝かすために油分多めのものを使ったり、マットになり過ぎているコードバンは水分系の保湿系のクリームを使ったりと革の状態を把握してしっかり磨きをかけます。
自分がキレイ好きな性格というのもあって気になるところは時間をかけて直してしまいます。たとえば凹んでいたりちょっとしたスレとかも直したくなちゃうんです。なので”気づく”ことは大切にしていますし、第六感が働くくらい全神経を集中させて磨いています。なので気になるところは全部お客様に躊躇わず伝えて磨きます。しっかり目の前で見てもらいたくて、カウンターも0メートルの超近距離にしています(笑)。この近さで見てもらうことで自分の成長にも繋がると思っています。
鏡面磨きに関しては透明感にこだわって意識しています。二度見されるような靴です、履いて歩いているときに見られるような靴にしたくて(笑)。自分の中で⚪︎×の基準を高めに設定していて、クリームから下準備とかはかなり重要視しています。僕の靴磨きのモットーにあるのは”恩返し”の気持ちがあって、来てくださった方への感謝の気持ちが大きいので「そのためにはこの仕上がりじゃ帰せない」っていう気持ちで磨いています。
なので細かいテクニック的なことはあまり考えていないんです。感覚的に勝手に指が動いている感じです。。。
・大平さんのところにはどんなお客様がいらっしゃいますか?
うちはお客様がマニアックな方が多いです(笑)。インスタで見た写真と実際に同じなのか見にくる方とか、写真を見せて「これと同じ感じに磨いて欲しい」などのご要望をいただくこともあります。古着好きのお客様が多いのでスーツをバシッと着てくるようなビジネスマン系は少ないかもですね。なので高円寺で靴買ったその足で寄ってくれたりする方も多いです。東中野から15分くらい歩けばうちに着くので。
お持ちになる靴がヴィンテージシューズが多いので、前にも乾燥がひどい靴が来たのでライニングにデリケートクリームを塗ったら割れがひどくなったこともあったりして、それは教訓になりました。そこから硬めのコッテリしたクリームを使うようにしたりしました。最初の頃のお客様はいまだに印象に残っていて、うまく仕上がらなくて2時間くらいかかってしまったお客様は傷跡のように残っています。
鏡面磨き中に水が染み込んでマットになってしまって、、、カップルでいらした方で初めて靴磨きをしてもらうっていう方だったんですが申し訳ないことしたなって。喜ばせられなかったという後悔があります。色々な経験を教訓にして頑張っています。
・大平さんならではの靴磨き道具を見せてください!
ハンドラップは口の部分だけ改良して3点からしか出ないようにして水が溜まらないようにしています。無色系のクリームは20種類くらい使っています。アンミカの「白って200色あんねん」じゃないですけど(笑)。ナチュラルもたくさん種類があるのでその中から革にあったトーンを選んでいます。
ワックスも10ブランドのものを使っています。これも革に合わせて厚みを出したり色感などに合わせて選んでいます。
・大平さんの今後のVisionを教えてください。
今よりもっと中古靴の数も増やして世の中に革靴を好きになってもらえる人が増えるように磨きも技術をあげて自分自身も店も大きくしていきたいと思います。まだ予定はありませんが将来的には店の移転も考えています。古着好きが多い高円寺とか吉祥寺とか良いな〜と。
これからは海外買付とかも行きたいですね。アメリカやイギリスなんか良いですよね。その時に機会があれば海外で靴磨きもしたいです。イベント出展とかもお声がけいただくのはとてもありがたいので続けていきたいです、そこで出会った方が革靴好きになってくれたりすることもあるので。
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大平さんのお店があるのは西武新宿線の中井駅から5分くらい歩いた住宅街の川沿い。こんなところで商売になるのかと思いながらお店を訪ねましたがそこには愛情とこだわりがたっぷり詰まった素敵なお店がありました。自分が好きなことを追求して自分が好きなペースでやってこられたからこそ出来上がった大平さん果汁100%のお店と技術なんだなと感動しました。
飲食店もそうですが愛情溢れるお店は間違いなく名店ですよね。ぜひ大平さんの愛情たっぷりの靴磨きを堪能したい方はお店にお伺いしてみてください!