「靴磨き職人探訪記」 part13 Mr,Mikito Kabasawa(Glayage KYOTO)
シリーズでお届けする「靴磨き職人探訪記」。世の中にはたくさんの素敵な靴磨き職人がいる!第13回は京都で活躍されているGlayage KYOTOの樺澤幹人さん。靴磨きだけにとどまらないトータルスタイリングショップとはどんなお店なのか。”今の樺澤さん”のお話しをお楽しみください。
・樺澤さんが靴磨きをはじめたきっかけはなんですか?
僕が靴磨きを始めたのが2009年なんですけど、アパレルで働き始めたのも2009年でした。ドレステリアっていうセレクトショップで働いていたんですが、当時は全くと言っていいほど靴とか洋服のこと知らなかったんですよ。唯一知ってたシューメーカーがレペットくらいなものでそれくらいの知識しかありませんでした。
そんな中で入社したドレステリアがとても厳しいところで、まず礼儀作法から教育を始めるようなショップだったんです。そのスタッフ教育の中で洋服の扱い方やファションアイテムのケア方法も勉強しました。アイロンがけとか洋服の畳み方とかを教わる中に靴磨きもあって、店頭での靴の扱い方とか靴磨きの仕方とかをそこで学びました。
デリケートクリームを塗ったりブラッシングかけたりとかシンプルな方法を教わったのを覚えています。そんな中、ある尊敬する先輩の靴がめっちゃ光ってたんです、そんな靴初めて見たので「その靴なんですか?」って聞いたらお店で扱っているオールデンだったんですよ、そのオールデンが鏡面磨きでピッカピカで、、、その時初めて靴が光ることを知りました。
それが最初のきっかけで、初めて見た時は感動をしたというかなんというか泥団子がピカピカに輝くのを見た時の感覚に近かったんです。しかもその先輩がかっこいい尊敬できる方だったんで尚更です。そこから自分も鏡面磨き始めるワケなんですけど、先輩にやり方聞いても「やってみ」って感じでM.MOUBREYのワックスくらいしかなくて、磨き布もネル生地もなくてシャツ地しかなくて全然光らないので挫折したんですよ(笑)
先輩からは、「ワックス取って、のせて、こすれ」くらいのアドバイスしかなくて全然理解できず光らなくて。。。悔しいので自分でどうしたら良いんだろうって考えながらその日は朝方まで磨いてたんです。最終的に面倒臭くなって指で塗ったんですよ、そしたら光ったんです!薬指で光ったんですよ、「お〜光った!」ってなってそこで成功体験はとても大きかったです。ギターコードの”Fの関門”みたいな(笑)。ハイシャインに関してはFのコードと一緒でいつの間にかできるようになったんですよ。
そしていつしかピカピカの足元の店員になってました。2010年にはVMD担当になってお店のディスプレイなどを仕事にしていました。ある時東京で展示会があるから出張が入ったのですが、その時のVMD部門の直属の上司から靴磨きが好きなら行ってみなって言われたのがBrift Hだったんですよ。僕がBrift Hに伺った時はまだ長谷川さん一人でしたよ。今思うとめちゃくちゃ失礼な感じだったな〜と思うのですが、磨きを依頼したんですがその日は後ろが詰まっていたので、「急ぎで30分くらいで磨いてもらえますか?」なんて言って磨いてもらったんですよ(笑)その時にめちゃ楽しかったっていうのが記憶に残ってるんですよ。
こんなBarのようなカウンターでこんな仕事があるんやって思って、それが靴磨き屋になろうと思ったきっかけです。靴磨きって商売になるんだと思いました。いつか独立しようと思ってはいましたが、洋服屋で独立をしようと思っていなくてメンテナンスで独立しようと思っていたのでそこに靴磨きの道がはまったんですよ。とはいえすぐに仕事にはできないと思っていたので、勉強期間を設けようと思いました。アパレルで与えてもらった仕事を120%でやりたいという思いもあったのでそっちもしっかりやりきろうと思い本気で働いていました。
ある時社内で開催されたスーツの販売接客のロールプレイングのコンテストで二位になったんですよ。数百名いる中で好成績を残せたことが認められてその後はコンテストの審査員や運営もやらせてもらいました。それを2015年くらいまで続けて転職したんです。仕事は充実していたのですがこのままだと独立が見えないな〜それはまずいと思って違うセレクトショップに移りました。余談ですがそこでもルクアという館主催の接客コンテストで二位になったんですよ(笑)。そんなこともありながら転職した理由は独立に向けての下準備期間中に靴磨きの勉強をしようと思っていたのでしっかり自由に働ける環境に身を置きました。
2、3年間の間、技術面に関しては磨きを沢山やるしかないんですが、お代を頂くには知識面をもっとつけないといけないと思っていたので革の勉強とか化粧品会社で皮膚の勉強とか、クリームの成分の内容分も詳しく調べたりとかしてました。通勤時間が往復2時間あって休憩時間1.5時間あったので合計3.5時間を毎日勉強に費やしました。具体的にはネットで調べたり本で調べたりして毎日勉強しまくりました、色々な角度から勉強にしていたのでクリームの勉強のためにマヨネーズの勉強とかしました(笑)。変に凝り性な性格なのでとにかく掘り下げまくりましたね、それをノートに溜めてました。
そんなある時転機が訪れました。
フォーチューンガーデン京都の支配人のNさんって方がいて、ドレステリア時代の顧客さんだったんですが、たまたまNさんに連絡することがあった時に電話口で、「靴磨きサービスをやりたいだけど樺澤さんの周りで誰かいる?」って聞かれたので即答で「俺できますよ!」ってなって(笑)。それが独立のキッカケなんですよ。じゃあ一回来てみてってなったのが2017年の夏頃だったと思います。
そこからエントランスに立たせてもらってスタッフさんの靴を磨かせていただいてました。着実に実績を積んでいき2018年2月に正式に開業しました。まだその時は店舗は持たないスタイルで仕事していて、週末はフォーチューンガーデン、月曜は集配や預かりを家でやる、火曜と金曜は凛靴さん(京都の有名靴修理店)で靴磨き、水曜は企業出張、木曜日は仕立て屋の店頭で靴磨き、と週7で仕事してました。
店舗を持たず1年間営業したのちに今のGlayage KYOTOを2019年9月に開店しました。最初から場所は京都って決めていたので物件は知り合いのバーバーのオーナーさんの持ちビルの2階を借りれたのですが、これもご縁がありまして一件契約が終了してちょっと露頭に迷っていた時に身の周りの人たちに店やってとリクエストをたくさん頂いたのもあり、店舗を探してたんですが物件はないし、家賃は高いしって感じの中で凛靴に来ていたお客様がこのビルオーナーさんだったんです。
店を開きたいって話をしたらちょうど2階が空くよってことでかなり良い条件でお借りできました。ほんと僕は素敵な出会いのおかげで今があります、自分がどうっているよりは自然と導かれるようになって今に至ってます。店名のGlayage(グラヤージュ)の意味ですが、フランス語でグラッサージュ(お菓子用語から来た光らせるという意味)とボヤージュ(フランス語で旅)をくっつけたんですが、めちゃくちゃ単純な理由でネットで検索した時にうちしか出てこない名前にしたかったのでこの造語にしました。
実はアパレル時代から連休を取ったことがなくて旅行に行ったことがないんです。そんな中でお客様から旅行の話をよく聞いたんですよ。その話を聞きながら旅に行った気になって楽しませてもらってたんです。そんな話を聞きながら「この靴でどんな旅をしたかまた話を聞かせてください。」っていう気持ちも店名に込められています。そもそも大きな意味で人生は旅みたいなものだと思うので人生を磨いて輝かすという想いもあるんですよ。
・Glayage KYOTOの特徴はなんですか?
うちただの靴磨き店ではなくセレクトショップみたいになっています。最初はシャツやパンツのオーダーくらいにしようと思ったのですが、いろんな方々との出会いがキッカケで気づいたらセレクトショップみたいになってます(笑)
基本はオーダー製品がベースでシャツ、パンツ、オーバーシャツ、ニット、カバーオールをオーダーできます。これが洋服でそれ以外にも最近では革小物の財布もあります。既製品とオーダー品の両方あってこだわって作っています。あと本丸である靴はオリエンタルシューズを販売しています。
取り寄せにはなってしまいますが常時販売をしていますし、半年に一度はオリエンタルシューズの細見さんをお招きしてオーダー会を開催しています。それ以外もソックスもあったりフレングランスのMOLTON BROWN(英国)とアンダーウェアのBARAILLE &GARMENTSというブランドもやっています。
いろんなお客様がいて、イベントで来てくれる方もいればインスタの投稿見て「あの服ってありますか?」って感じでオーダーしに来てくれる方もいます。自分で生地の選定とフィッティング・補正を行い、提携している工場や工房で縫製してもらってます。
ゲージサンプルに関しても僕が希望しているシルエットをベースに、工房に協力いただいて作成しております。元々アパレル出身だったのでファッションはうちの強い特徴だと思います。
・樺澤さんの靴磨きのこだわりは?
グラッサージュというお菓子業界の用語を店の名前にしているだけあり、「美味しそう」って思ってもらえる仕上がりを大切にしています。ウルっと輝かせる感じが好きです。ただ靴を光らせるではなくお客様のライフスタイルやファッションのスタイルを見て合う仕上がりにしていきます。どなたでも必ずしも鏡面磨きが合うわけではないと思うのでファッションの観点で靴を磨けるのが自分の強みです。
それがあるのでお客様とのコミニケーションはめちゃくちゃ大切にしています。カウンセリングとコンサルティングというのが根幹にあるんですが、カウンセリングしないとコンサルティングできないのでカウンセリングをめちゃくちゃやります。「それ聞いて良いの?」ってところまで聞きます(笑)。鏡面磨きをやって欲しいというリクエストをいただいても、「なんで?」からはじめます。
仕事なのかイベントなのかってものも聞きますし、お勤め先なども聞ければ聞いて鏡面磨きをおすすめしない場合もあります。例えば飲食店にお勤めしている方で水回りを歩くか聞いて、そのあたりのアフターメンテも含めて話をしたり、不動産業の方であればどんなお客様と合うかなどクライアントに合わせてやった方が良いからおとなしめの光沢で印象良くなるよ〜なんて事もしばしばあります。
技術的なこだわりとしては、光沢のモチの良さはよく褒められます。光沢の出方も特徴的だとよく言われますね。鏡面磨きの時の水分量だと思いますが、水はネルで磨くタイミングでほぼ使っていないんですよ。最初に水をちょこっとつけて仕上げていくんです。使っているのがサフィールのワックスだけなので溶剤が多く柔らかいワックスなのでそれもあると思います。多分それが長持ちの秘訣です。
あと履き心地も言われます。カウンセリングの時に固くて履きにくいなど聞けば革をほぐして磨いてあげるんですが靴のマッサージの仕方も独特らしく手の内側で揉むんですよ。これやってあげると硬いって言っていた靴がめちゃくちゃ履きやすくなったと未皆さん言ってくれますね。
・今後やっていきたいことはなんですか?
最近いろんな方と話したり、アドバイスいただりして見つめ直したところが一つあって、昔の樺澤少年に「こんなに良いものあるんやで」ってのを知って欲しくてやっていることに気づいたんですよ。靴磨きとか洋服とかを知らなかった頃の自分へのメッセージというか。
色々とやっていますがその根本は靴磨きを知らない方々に広めていきたいからなんだと思ったんです。昔から橋渡し的なことをやりたいっていうのはぼんやり言ってたのですが今は明確に言えます。靴磨きの入り口を伝える役割をしたいなって思っています。
なので靴磨き知らない人にもっと広く見てもらえるように活動していきたい。もっと単純に言うと”モテたい人”に向けてです(笑)。それは異性だけではなく、人によく見られたいという人にモテたいって意味ですが、洋服もそうだし靴磨きもそうだしフレグランスもだしコミニケーションも含めて全て伝えていきたいです。
今年の夏からYOUTUBEもやり始めていて靴磨きについてだけでなく色んな人と対談もしています。配信はめちゃ楽しいですね!トータルスタイリングショップとして2022年から洋服をやり始めてから靴磨きとで中途半端な感じに見られてしまっているので、「全部本気やで!」って言うことをしっかり伝えていきたいところです。
まだまだファッションと靴磨き(革靴)には垣根があると思っていて、それぞれが批判的なスタンスの人っているですがそれを無くしたんですよ。その垣根を壊したいんです。「靴磨いたらカッコええやん!」「オシャレしたら綺麗な靴履いたらええやん!」っていう想いがあるのでそこを伝えていきたいです。何よりもモテますし(笑)
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もう出会ってから13年も経つ樺澤さんですがまじまじとお話を伺うのは初めてでした。靴磨き界きってのおしゃれさんで、カバウォークという歩いている姿を横から撮影する投稿がインスタの名物になっている樺澤さん。
見た目のオシャレさと気さくなお人柄のギャップが多くのファンを作っている秘訣だなと改めて感じました。一度会ったら惚れ込んでしまうこと間違いなし、ぜひ京都に行かれた際は皆さんも大切な靴を磨いてもらってみてはいかがでしょうか。