「長谷川裕也の熱烈靴磨き道場」其の玖

シリーズでお届けする「長谷川裕也の熱烈靴磨き道場」。第9回目は、靴磨きをする上での「第6工程目」について。長谷川裕也が熱く語ります。

靴磨きをとことん詳しく伝授する熱烈靴磨き道場、今回は全16工程のうちの6工程目にあたる“汚れ落とし”です。靴を磨く上で最重要と言っても過言ではない工程です。汚れ落としをキチンと出来ないとそのあとの仕上がりに大きく影響してきますのでしっかり身に付けていきましょう。

コバインキを塗布してからはいよいよ汚れ落としの工程です。汚れ落としの工程には2つの大切な意味があります、それは「靴に付着した汚れの除去」と「古いクリーム、ワックスの除去」です。昔から靴を磨いている方の中では汚れ落としの工程、すなわちクリーナーを使ったクリーニングをしない方も多くいらっしゃいます。中には「汚れ落としは革を傷めるのでやらない方が良い」という意見もあります。

たしかに汚れ落としをやり過ぎると革の表面(銀面)を傷めてしまいヌバック状態になってしまう場合もあります。なのでやり過ぎは禁物なのですが、私の経験から言いますと確実に汚れ落としはやるべきです。と言いますのも、汚れ落としはお肌のお手入れでいうところのクレンジング、洗顔です。スキンケア業界では綺麗な肌を保つには一番重要とも言われていますが革製品も同様です。

汚れや古いクリームなどを除去せずに上塗りを繰り返していくと革の表面に徐々に積み重なっていき革本来の美しさは損なわれていきます。また革の表面で固まった古いクリームなどが新しいクリームの浸透を妨げるために革は徐々に硬化していき最終的にはひび割れていきます。これは今までお客様の何万足の靴と接してきて数多くこの現象が起きてしまった靴を見てきたので間違いありません。その経験から汚れ落としがどれだけ大切かというのを身に染みて感じています。

汚れ落としの工程で重要なのは“適度に汚れを除去する”という事です。人間のお肌と一緒でやり過ぎると肌が荒れてしまうのでどうやって行うかという事が大切です。そこでおすすめなのがペーストタイプのクリーナー。

液体タイプのクリーナーに比べて革への浸透が少なく表面の汚れと古いクリームを溶かして除去するので革への負担が少なく汚れを除去することが可能です。液体タイプのクリーナーも使い方が慣れていれば素早く汚れを除去できるので良いのですが今回はペーストタイプでの方法を伝授します。

方法ですが、まず細くカットした布(Tシャツやタオルなど使い古したもので良い)を指に巻きます。人差し指と中指の部分にクリーナーを少量取ります。指の腹にさっと取るくらいで大丈夫ですが、やりながら自分の使い易い量を見つけれると良いでしょう。

そして靴の踵から布で拭いていきます。その時にクリーナーで汚れを”馴染ませて→溶かして→拭い取る”というイメージで拭いていくと綺麗に除去できます。液体クリーナーと違い、ペーストタイプなので”馴染ませる”という感覚がとても重要です。すると面白いくらい簡単に汚れを除去できます。

大体片足に対して4、5回に分けて汚れ落としをしていきます。カカト→サイド→前方→サイド→カカトというようにグルっと一周丁寧に拭いていきます。革の表面をしっかり見ながら拭き逃しがないように集中して拭いていきましょう。つま先やカカトなど鏡面磨きを施している靴はムラにワックスの膜が残ると仕上がりの美しさに大きく影響しますのでムラがないように気を付けます。

その際に大切なポイントですが、鏡面の膜は“70%除去”くらいを心がけましょう。分かりにくいかもしれませんが磨きたての鏡面仕上げの膜を100だとすると70を除去して30くらい薄く残しておくのです。そうすることでこの後の鏡面磨きがやりやすくなる&厚塗りを防げます。(※ただし鏡面がごっそり削れていたり擦れている場合は100%除去しましょう)布を無駄なく満遍なく使って拭いていきます。

靴全体を丁寧に汚れ落としすると写真のように全体的に艶が消えマットになります。汚れ落としする前の靴と比較すると一目瞭然です。このすっぴん状態にすることで次の工程であるクリームの塗布(栄養補給)が効果的にできるのです。

ここで一つ注意点。明るい色の革の場合、クリーナーが染み込んで色が濃くなる場合があります。ライトブラウン系の革などを汚れ落としする際はクリーナーを少なめに取り、手早く満遍なく拭くことを心がけましょう。

クリーナーを多めにとってしまうとファーストタッチの部分がグッと染み込んでムラになってしまう場合があります。なので少なめにとって手早く行うのです。大体は時間が経てば色は戻ってきますが素仕上げに近い革やパティーヌを施した革などは色を変化させてしまう可能性があるので十分に注意してください。もし自信がない方はプロに委ねてしまった方が良いでしょう。。。。

さて、次回は7工程目にあたる“クリーム塗布”です。栄養補給として革の寿命を決めるこれまた超重要な工程です。クリームをどのように塗布すると良いのか。どんなクリームを選べば良いのか。僕らで言うご飯であるクリーム、何を食べているのかで健康状態や体形も変わるのと一緒で靴もどんなクリームを塗っているのかでエイジングが大きく変わります。

そのあたりを深く掘り下げていきましょう。それでは春本番、GWももうすぐそこです。足元を美しくこの春を満喫しましょう!それではまた来月!押忍!押忍!押忍!

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