「長谷川裕也の熱烈靴磨き道場」其の拾四
シリーズでお届けする「長谷川裕也の熱烈靴磨き道場」。第14回目は、靴磨きをする上での「第13、14工程目」について。長谷川裕也が熱く語ります。
やっと涼しくなってきて歴史的な猛暑も終わりそうです。いよいよオシャレを楽しめる季節がやってきますね、”オシャレは足元から”ということで靴を美しく輝かせてファッションを楽しみましょう!
本日は第13工程目「ヴァンプを輝かす」と第14工程目の「水研ぎ」にお教えしていきます。
一般的には鏡面磨きはつま先やかかとの芯が入って曲がらない部分だけに施すというのが常識だと思うのですが、両端だけ光らせるとそこだけエナメルのような違う素材を使った靴のようになってしまいます。
僕の感性ではそれは美しいと思わないので出来るだけ靴全体が輝くようなグラデーションになっている鏡面磨きを目指しています。そのためにはヴァンプ部分を輝かす技術というのがとても重要になってきます。
そのために必要なのは”山羊毛ブラシ”です。柔らかい山羊の毛でないと濡れたような艶は出ないのです。ピッカピカではなく”濡れたような艶”というのがグラデーションで重要になってきます。
方法としてはブラシの毛先を少し濡らして靴をブラッシングします。なのでハンドラップに1プッシュ水をつけましょう。
そして毛先全体に水が馴染むように手の平で水を広げます。
毛先全体が少し湿ったかなという状態にしてから靴の”つま先とかかと以外”のヴァンプ部分をブラッシングしていきます。
鏡面磨きを施した”つま先とかかと”にブラッシングしてしまうとブラシの毛の跡が線のように残ってしまうのであくまでヴァンプ部分に限定してブラッシングしてください。 ここはとても重要です。
コツは最初少し力を入れてゴシゴシとブラッシングをします。その後少しずつブラッシングの力を緩めていき最後はササ〜っと優しくブラッシングをするとジワっと濡れたような艶が出てきます。
履きじわの付近などこの濡れ艶を出せた靴はなんとも言えぬ魅力を放ちます。革がじんわり油で滲むような雰囲気で触ると濡れているのかなと思いますが見た目だけで革の表面はしっかりと乾いていますのでご安心ください。
「ヴァンプを輝かす」を完了したらいよいよ「水研ぎ」です。この工程はシンプルですがかなり難しく、コツが必要なのでしっかりと読んで実践してください。
水研ぎは新しい部分を使うので布を巻き直します。しっかりシワにならないようにピンと指に巻いたら鏡面磨きの最初と一緒で4,5滴水で布を濡らします。
そして鏡面磨きを施した”つま先とかかと、こば上”を力強く縦方向に磨いていきます。
包丁を研ぐように縦方向にロウの膜をグッと圧縮するようなイメージで力を入れて研ぎます。最初は水分が多いので水滴が薄く出ると思いますが、研ぎを続けていると少しずつ水分がなくなり布が乾いてきます。それと共に研ぐ力も弱めていきます。
最後の方は触れているか触れてないかくらい優しく研いでください。ここがとても難しい部分なのです。
コバ上の部分はコバに沿うように研いでいきましょう。す〜っと美しい鏡面のラインが出てきます。
かかとも同様に光らせた部分全体を研いできます。ぷるんっと丸みを帯びた美しいヒールカップになります。
しっかり全体を水研ぎをすると曇りのない美しい鏡面磨きが完成します。
もしも布の拭き跡が少し出てしまうような状態が続く場合、鏡面の膜が薄くてまだ完全に革の表面の凹凸を埋めきれていない可能性が高いので、前工程に戻って再度ワックスを重ねていくのを行うのが良いでしょう。しっかりとワックスの膜ができている場合は水研ぎを施すことで美しい鏡面になるはずです。
Brift Hに入った新人も皆この水研ぎという工程を習得するのに苦労します。ワックスを乗せて乗せて乗せて最後の水研ぎ!っていうところでなかなか思い通りの光沢が出ない。。。
水分が乾いていくにつれて研ぐ力を抜いていく繊細なタッチで研ぐのが簡単には身につかないのです。ぜひこれをご覧くださっているシューシャインラバーの皆様もこの水研ぎをしっかりマスターできるよう手捌きに集中してやってみてください。
というわけで次回は最終である第15工程の「ソールにオイルを塗る」です。この連載が始まって約1年になりますがやっと基本の磨きの最終工程にたどり着ける日が近くなりました。
現在、2023年の靴磨き選手権大会が絶賛開催中ですが日本中の靴磨き職人が日々の精進の成果を発揮して熱い戦いが繰り広げられております。大会を通りして靴磨きの素晴らしさが広く広まれば嬉しいです。ぜひ皆様も「10月7日阪急メンズ東京1stラウンド」、「11月18日銀座三越ファイナルラウンド」の大会もご注目ください。