シンガポール靴磨き漫遊記

パリ帰国から4日、まさかの「パスポート忘れ」という大波乱で幕を開けたシンガポール遠征。アジア初開催の「Super Trunk Show」で審査員と講師を務め、日本流の靴磨き哲学を魂込めて伝えてきました。職人たちの熱き真剣勝負と、日本の技が世界を魅了した激動の数日間。その波乱に満ちた軌跡を綴ります。

パリから帰国してわずか4日後。「少し休めばいいのに」と自分でも思いながら、次なる目的地はシンガポール。靴磨きアジア大会の審査員として向かいます。しかしその時の私、絶不調。時差ボケは抜けず、風邪は悪化、体力メーターは赤点滅。朝4時に起きて始発で成田へ向かうという気合いだけの行動に出たのですが、日暮里で京成に乗り換える瞬間、ふと気づくのです。

「……パスポート、家だ。」

人生初のやらかし。朦朧と家を出た代償は大きく、その日のフライトは即終了。革命どころか出国すらできない男。潔く帰宅し、布団で療養。出だしから波乱万丈です。翌日仕切り直して、無事シンガポールへ。深夜到着、湿度高め、でもどこか心地よい空気。翌日は早速大会本番です。

翌日仕切り直して、無事シンガポールへ。深夜到着、湿度高め、でもどこか心地よい空気。翌日は早速大会本番です。舞台は『Super Trunk Show』。世界各地で開催される革靴の祭典で、私自身もロンドン大会で優勝した思い出の大会。そのアジア版が初開催されるのです。

大会前には私・長谷川の靴磨きセミナーも開催。通訳を挟みながら、魂込めて日本流の靴磨き哲学を語りました。磨きは技術であり、所作であり、心意気である、と。熱量だけは時差ボケを超えていました。

そして1月31日15時、いよいよアジア大会スタート。出場は3名。Brift H札幌代表・林田直樹、シンガポールの女性職人ニコさん、そしてベトナムの若き実力者マーさん。ルールは20分で片足をどこまで美しく仕上げられるか。使用するのは全てSaphir製品。ブラシと布のみ持ち込み可という、ほぼ同条件の真剣勝負です。

私は審査員なので、磨いている最中は控室で待機。終了後に7名の審査員で「あーでもない、こーでもない」と議論しながら、艶、均一性、立体感、仕上がりの美しさを細かくチェックします。

そして、結果発表。心の中で林田さんの優勝を祈りつつ、結果は3位。優勝はベトナムのマーさん。バランスの取れた光沢、完成度の高さは圧巻でした。林田さんも健闘しましたが、世界のレベルは確実に上がっている。悔しさと誇らしさが入り混じる大会となりました。

その後はスーツを愛するシンガポール紳士の皆様と街を散歩し、記念撮影。おしゃれ好きは世界共通言語ですね。

翌日は、審査員仲間でもある名店”MASON & SMITH”にて「JAPAN CRAFTS MAN」イベントを開催。Brift Hの靴磨きに加え、コードバンで名高い新喜皮革、浅草のシューメーカーRENDO、高級ソックスのIDE HOMMEと、日本の職人が集結。開店から大盛況でした。

最初のお客様はなんと女性。履いていたのはGUCCIのビットローファー。しっとりと深みのある光沢に仕上げると、鏡のように輝き、会場の空気が少し変わる。やはり靴は人を雄弁にします。

怒涛の2日間を終え、日本チームで打ち上げへ。JOHNおすすめの中華料理店で乾杯。疲労も時差も忘れる美味しさでした。きっと来年も審査員として呼ばれるでしょう。その時はパスポート確認を忘れずに。

日本流の靴磨きを携えて、これからも
“世界の足元に革命を”