「靴磨き職人探訪記」 part22 Mr, Katsuhisa Manome(THE FACTORY by Brift H)

シリーズでお届けする「靴磨き職人探訪記」。世の中にはたくさんの素敵な靴磨き職人がいる!第22回は大磯にあるTHE FACTORY by Brift Hで靴修理で腕を振うベテラン職人の馬目克久です。某靴磨き店のマネージャーからBrift Hへ加入してどんな想いで靴に対峙しているのか、ぜひご一読ください。

Brift Hで修理を担当する馬目さんに、これまでの経歴や靴修理の面白さ、Brift Hでこれからやっていきたいことについて聞いた。馬目さんが最初に靴修理の仕事に触れたのは、20代の終わり頃、求人を見て興味本位で始めたのがきっかけだったという。

「いろいろ仕事はしてきましたけど、普通に求人を見つけて、ちょっと興味本位でやってみたんですよね。そしたら意外と自分に合ってるなと思えてきたんです。」

実際にやってみると、修理によって靴がきれいになっていくことが面白かった。かかとが整い、靴底がきれいになっていく。その変化を見ながら、この仕事は自分に向いているかもしれないと感じたという。

最初に働いたのは、池袋にあった昔ながらの修理店だった。親方は同年代で気も合って楽しかったのだが、その時はアルバイトとして短く経験しただけで、いったんは靴の世界を離れ、別の仕事をしていた。それでも、靴修理の仕事は頭のどこかに残っていた。そして別の仕事をするなかで、「このままでは将来食べていけない」と感じ、あらためて靴の仕事で生きていこうと決めた。

「他の仕事をやってた時に、このままじゃ僕まずいなと思ったんですよ。将来、食っていけないなと思ったんで、靴で一生食っていこうと思ったんです。」

そうして戻ってきたのが、靴磨きの現場だった。馬目さんはもともと靴修理経験があったことから、靴磨きの仕事と並行して修理部門の立ち上げにも関わることになる。ただ、当時の店舗はそれまで知っていた町の修理店とはかなり違っていた。

「お客さんの靴を、その場で職人が座って磨くっていうのは初めてだったんで、できるかなというのもありました。でも、普通の町の修理屋さんでやるより面白そうだなと思ったんです。」

最初は靴磨き道具を渡されて、まずは自分でやってみるところから始まった。練習用の靴を磨き、預かりの靴を触り、やがて店頭でお客様の靴を任されるようになったという。修理部門の立ち上げでは、新店だったこともあり最初はなかなかお客様が来なかったが、次第に認知が広がり、修理も磨きも忙しくなっていった。

馬目さんが感じている靴修理の魅力は、とてもシンプルだ。

「自分のやったことを靴が答えてくれる。そこがやっぱり魅力で。」

靴は車のように遠い存在ではなく、もっと身近なものだということが魅力の一つ。未経験からでも入れる業界ではあるが、やればやるほど奥が深い。靴がきれいになっていくこと自体が面白く、自分に向いていると感じたことが、長く続けてこられた理由のひとつになっている。

一方で、簡単な仕事ではないとも話す。

「向いてないとたぶん無理だと思うんですよね、この業界。根性というか、そもそも好きじゃないと続かないと思います。」

靴が好きという気持ちはもちろん大事だが、それだけでは続かない。向き不向きもあるし、地道に続ける力も必要だという。では、修理をする時に何を大事にしているのか。その点について馬目さんは、できるだけ元の状態に違和感なく戻すことだと話す。

「元の状態に違和感なく戻せるように、できる限りきれいに仕上げる。それは常に心がけています。」

ここでいう元の状態とは、見た目だけではなく履き心地も含めた、その靴らしさ全体のことだ。ただ最近は、お客様からカスタムの要望を受けることもある。その場合は、履き心地が変わることや靴が重くなることなど、起こりうるデメリットをきちんと伝えたうえで、それでも希望があれば対応するようにしているという。

「変に固い頭ではなくて、柔らかい頭でやっていこうとは思ってます。」

オリジナルに近づけることを基本にしながらも、お客様の要望にも応えていく。そのバランスを取ることも、修理の仕事の一部なのだろう。

印象に残っている靴について聞くと、修理ではなく磨きの現場で出会った一足のエドワードグリーンを挙げてくれた。もともとはそこまで靴好きではなかったお客様が、店での体験をきっかけに靴を好きになり、オーダーした一足を持ってきてくれたのだという。

「そのセンスがすごいなと思って、未だに覚えてますね。ライニングをエメラルドグリーンでオーダーしたあのエドワードグリーンは本当にかっこいいなと衝撃でした。」

靴そのものの良さだけでなく、持ち主の感性も含めて印象に残っている一足だったようだ。また、馬目さんは修理の難しさについても率直に話してくれた。靴磨きはビフォーアフターが分かりやすく、お客様の反応もストレートに返ってきやすい。一方で修理は、時間をかけて仕上げても「ありがとうございます」で終わることが多いという。

「頑張っても報われない、っていうのはありますね。でも、それが修理なのかなとも思います。」

それでも続けたいと思えるのは、靴の仕事そのものが好きだからだ。将来の夢や目標について聞くと、独立して店を持ちたいというよりは、この仕事を長く続けていくことが一番の目標だと話した。

「自分ももういい歳なんで、目標というか、この仕事がずっとできればいいなっていうのが目標かもしれないですね。」

靴を直し、靴に関わる仕事を続けながら生活していくこと。そのために、体を動かしたり、暴飲暴食を避けたりと、体調管理も意識しているという。生涯現役でいたいという思いが、その言葉から伝わってくる。そして今、馬目さんはBrift Hに入ってまだ半年ほど。新しい環境で、これからもっと面白いことに挑戦していきたいと考えている。

「長谷川さんのところで修理ができるという記事を見て、なりふりかまわずメールを送らせてもらったぐらいです。」

Brift Hに来た理由もはっきりしている。ここで修理をやることに意味があると感じたからだ。

「面白いことをいろいろチャレンジしてやっていきたいっていうのは、常に思ってます。やらないと、Brift Hに入った意味がないので。」

馬目さんの話を聞いていると、靴修理という仕事が単に壊れた部分を直すだけの仕事ではないことがよく分かる。靴を元に戻すこと、お客様の希望に応えること、そしてそれを長く続けていくこと。そのひとつひとつに、馬目さんらしい実直さが表れていた。

最後にあっと思い出したように放った一言が印象的だった。

「さっき目標はあまりないようなことを言いましたが夢ありました、いつかロンドンで靴修理をして生活してみたいですね。」

52歳のベテランが最後に少しはにかみながら語った夢、その瞬間は目がキラキラ輝く少年のようだった。これからBrift Hでどんな修理を見せてくれるのか。これからの活躍が楽しみだ。

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