「靴磨き職人探訪記」 part17 Mr, Koya Inada(Brift H)

シリーズでお届けする「靴磨き職人探訪記」。世の中にはたくさんの素敵な靴磨き職人がいる!第17回はBrift H AOYAMAの店長、稲田耕也です。食品メーカーの営業からお客様の笑顔が見たい一心で靴磨き職人へ。元々器用ではないという言い張る稲田の靴磨きへのこだわりを聞きましたのでぜひご一読ください。

・靴磨き職人になったキッカケは?

僕が靴磨き職人になったキッカケは転職しようと思ったのとイコールなんですが、前職の食品メーカーの営業時代の話に遡ります。営業の仕事でスーパーを中心に小売店に商品を店頭に並べてもらうという営業をしていました。仕事自体は楽しかったんですが納品するところまでしか結果が見えなくてその商品を買った人がどんな反応をしてくれるかを僕は見たかったんです。

自分の仕事に対してお客様の反応が目の前で見れる仕事をしたいと思ったのが一つの理由で、もう一つは数十年後に人生を振り返った時に”楽しかった”と思えるようしたいなと考えた時に、一番長い時間を費やすのが仕事、であればやりがいのある自分が好きなことを仕事にしたいと考えていました。

そんな想いがありながら転職活動をしはじめました。自分が好きなことで尚且つお客様の反応が目の前で見れることはなんだろうと考えながら仕事探しました。「カレー屋」「古着屋」とかも思いついたのですが出会うお客様の限られるなと思ったんです。どうせやるなら色んな人に会う仕事が良いなと思った時に靴履かない人ってほとんどいないよなって思って、日本にある靴の数だけ出会いがあると思った時に「よし!靴磨きだ!」と思いました。

靴磨き自体は元々営業職だったので足元は綺麗な方が良いなと思って素人なりに磨いていました。ただ全然その時は鏡面磨きとかは知らなくて、なんとなくお手入れするみたいな感じでした。古着屋で買った古い靴を自分でお手入れして楽しんでました。学生時代にサッカー部だったのでスパイク磨きで靴磨きは気持ち良いなと好きでやっていたので本当のルーツはそこだなと思います。それもあって社会人になって革靴に目覚めました。

営業時代はREGALやALLEN EDMONDS、USネイビーのサービスシューズなど履いていました。今思うとサイズとかめちゃくちゃだったなと思いますがそれも良い思い出です。

そして色々と求人など調べているところでちょうどBrift Hの求人を見つけました。今でも覚えていますが確か求人が11月末か12月頭くらいで出ていたんですが、前職の年内最終出社日の帰り道に本屋に寄って履歴書を買って帰りお酒飲みながら記入した記憶があります(笑)。

Brift Hの面接を受けたのですが1回目は落ちました。Brift Hでダメだったら会社に残ろうと思っていたのでそのまま仕事を続けていたある日、Brift Hから電話が来て「うちで働かないか」とお話をもらいました。でもちょうど年度末で大きなお客さんを引き継いだばかりだったのですぐに転職する訳にはいかず数ヶ月もらって引き継ぎをしっかりやってから転職をしました。

Brift Hに入社してから本格的な靴磨きをはじめたのですが、最初めちゃくちゃ下手くそで2階のアトリエの中で先輩たちに教えてもらいながらいつも悩んでました。手先もそんな器用じゃないので最初は靴磨きってすごい難しいな〜って思いました。自分が好きでやる分には自分が満足すれば良いのですがお金を頂いてやる仕事としての靴磨きとなると一気に難しいと思いました。

すごく戸惑いを感じた点としては、お預かりの靴磨きとカウンターでの靴磨きが全然違うのに適応することでした。預かり磨きは効率よくやらないといけない。カウンター磨きは接客しながら所作含めた美しい靴磨きを求められます。器用な人間ではないので同時並行で身につけるはとても苦労しました。

でも長谷川さんのテストで合格点をもらわないと結局自分の夢が叶わないので頑張らないと日々自分を鼓舞していました。先輩に毎日怒られ悩んでいたのですが自分が入りたくて入った会社、やりたくてはじめた仕事だったので腹を括るしかないと思って、新井田さんにお願いをして「マジで頑張りたいので本気でしごいて下さい。」って話したことがあって、そこが大きなターニングポイントになりました。

そこから日々ことあるごとに細かく厳しい指導を受けました。僕が覚悟を決めた上でのアドバイスだったので全て受け止めて仕事をしました。かなりしごかれて好きなだけで仕事にした自分の認識が甘かったなと思いつつもおかげさまで完全にスイッチが入りました(笑)。

入社してから半年くらいでカウンターデビューしたのですが、いまだに忘れられない最初のお客様はスマイリー菊地さんでした。PRADAのライトブラウンのスニーカーを磨かせてもらったのですが、初戦だったのもあり緊張し過ぎてほとんど記憶はありません(笑)。終わった後は大きな達成感と充実感がありようやくスタートラインに立ったな〜と思いました。

・磨きのこだわりを教えてください。

お客様が楽しんでくれるのを一番に考えています。せっかくお店まで足を運んでくれたんですから絶対に満足して帰ってもらえるように心掛けて磨いています。靴磨きをしていなかったら出会わなかった方たちばかりですので、その時だけではなく長くお付き合いできるようになれば良いなと思い接しています。例えば結婚式前にいらっしゃるお客様の靴磨きをさせてもらう時はより良い結婚式になるように想いを込めて磨いています。

技術的なこだわりで言いますと、個人的な好みですがワックスのベースを指乗せで沢山するのがあまり好きではなく、お客様の立場になっても指で乗せてるいるのって見てるの楽しいかな?と思うので、それであれば布を指に巻いて徐々に光っていくのが変化もあって楽しいと思うのでそっちの磨きをしています。仕上がりも布で光らせた光沢が好きなんです、品があるというかギラつき過ぎていない光沢感になるんです。鏡面ではあるけど自然な雰囲気がある鏡面が好きです。

あと最近なのですが手をいろんな向きに動かすようにしています。普通に磨いていたら時計回りなのですが反時計回りもするし直線磨きも意図的に入れるようにしています。その方が鏡面の仕上がりが綺麗になるんです。毛穴に対してずっと一方方向で磨くと偏りが出てしまうのでいろいろな方向で磨くことで毛穴に対して全方向からワックスを乗せることで鏡面が均一になるのだと思います。

・印象の残っているお客様や靴はありますか?

Eさんというお得意様の一番最初のご来店の時ですね。すごい動画を撮るお客様だな〜と思って(笑)。一部始終全部撮るんですよ。それを細切れでインスタに上げていたんです。最後磨き終わった靴を履いているところの写真を撮ったのですが、いまだにスマホの待ち受けにしてくれているんです。その時の喜び方がすごくて「靴磨き職人になって良かったな〜」と心から思った瞬間でした。そんな出会いで今も変わらずお付き合い頂いておりとても嬉しいなと思います。

あとはYさんのステファノブランキーニの靴なのですがノルウィージャン製法のオールソールを承ったんです。まだ入社半年くらいの時で靴の知識があまりない中で難しい修理内容だったので何度も何度もやり取りをさせて頂きました。とても時間がかかってしまいご納品まで半年間頂いてしまったのですが最後はバッチリ直ってお渡しできました!それは印象に残っておりYさんとお会いする度にその時の話になります(笑)。

・今年の大会への意気込みは?

昨年のリベンジをしたいですね。前回大会はめちゃくちゃ緊張して自分がやりたかったことが全然できてなかったんです、そこをとても悔やんでます。普通に自分の結婚式のスピーチよりも緊張しました(笑)。

なんで緊張するのか考えてみたら、人に見られた上で自分が磨いた靴を採点されるというのこととお店の看板を背負っているという責任感から来るんだと思います。ただ昨年自分がどれだけ緊張するか分かったので対策が打てそうです。

前回大会は妻が観にこれなかったので今年の大会は2回戦から観にきてくれるので一回戦は最低でも勝ちます(笑)。緊張しないように昨年以上に練習したいと思います。目標は決勝進出です!

・Brift Hのグッズの中でおすすめアイテム教えてください。

なんだろうな〜全部お勧めしたいけどな〜。あえて選ぶならTHE CLEANER for mirror shineとTHE CREAMですかね。

クリーナーはミラクリです。革に優しく、汚れがきちんと取れるところですね。 扱いやすさも魅力で、鏡面磨きの靴用として作られましたがそうではない靴にも使えて万能選手なのでお勧めです。

THE CREAMは成分も良いですし、クリーム入れてブラッシングして乾拭きした後の手触りがとても良くて、その後の鏡面磨きがやりやすいところです。 ワックスを使わなくても自然なクリームだけの艶感も好きです。クリームでフィニッシュもオススメです。

磨きも接客も決して器用とは言えない稲田ですが、持ち前の真面目さとちょっと変わった趣味趣向が絶妙な味を出して青山店を引っ張ってくれています。これからも多くのお客様に感動を与える靴磨き職人になって欲しいなと思います。

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