「靴磨き職人探訪記」 part14 Ms,Juria Nakano(Ownskin)

シリーズでお届けする「靴磨き職人探訪記」。世の中にはたくさんの素敵な靴磨き職人がいる!第14回は広島で活躍されているOwnskinの中野珠凛明さん。おしゃれで可愛い見た目とは裏腹に2023年の靴磨き大会ではその実力を見せつけた女性靴磨き職人筆頭です。

・珠凛明さんが靴磨きを始めたきっかけは?

まず革靴との出会いは私が大学1年生の時にPARABOOTのミカエルを買った事です。当時美容室でアルバイトをしていて周りにおしゃれな人が多いのもあってPARABOOTを知り必死にお金を貯めて買ったんです。自分でお手入れしようかなとも考えたんですが、大事な靴なのでプロにやってもらった方がぜったいに良いと思って検索をしたら92が出てきました。その後靴磨きに行ったのが最初の靴磨きとの出会いでした。

磨いてもらった時革靴ってこんなに綺麗になるんだと感動し、長く物を使うことに魅力を感じました。そこから靴磨きは半年に一度のペースで通い靴磨きの魅力に引き込まれていました。その時の92ではお店に若い女の子が来るのが珍しかったらしく「やばい女の子が来た!」と少し話題になっていたみたいです(笑)当時の私は独特なファッションをしていて、髪の毛も短かったし金髪だったりネイビーに染めていたりしていた時期だったのでインパクトがあったみたいです。笑

大学を卒業し、特にやりたい事がなかった私は一般企業に就職をしました。そこでの最初の仕事が家電量販店で声かけないといけない仕事だったんです。でもそれは”自分がされて嬉しいこと”ではなかったんですよ。そこで改めて自分の人生を考えた時に自分がされて嬉しくないことでお金を稼ぐ生き方はしたくないな。と思い”自分がされて嬉しいこと”を仕事にしたい!と思ったんです。なので家電量販店の仕事は研修の二日間で辞めました(笑)あ〜無理って思って。。。

仕事を辞めてから自分が何をしたいのかな〜と本気で考えました。紙に書き出したり人に相談したり。その中でも1番しっくりきたのが靴磨きでした。その日のうちに92に働きたいと言いに行きました。振り返るとこの時の行動力は自分でも凄かったと思います。河村真菜さんをテレビで観たのもあって女性の靴磨き職人ってかっこいい。あんな人になりたい。って思っていたのもあって靴磨きという業界がいいなと思っていたのもあったと思います。

92に働きたいと言いに行った時は求人募集はされておらず、まず提案された事が私が実際に真菜さんに会いに行くことでした。会いに行って話してみて本当に靴磨きがしたいと思ったらまたおいで。と言われました。私はすぐに真菜さんに磨いてもらいに行きました。その頃はすでに拠点を東京に移されている時だったので夜行バスで12時間かけて会いに行ったのを覚えています。笑

真菜さんとお話してさらに靴磨きがしたいと思ったので、広島に帰ってきてすぐ92に靴磨きをやりたいと改めて言いに行きました。その場で私の行動力と熱意を評価してくれて働くことが決まりました。

24歳の7月にOwnskinという屋号でスタートし靴磨きする場所を探したのですが、カフェやバーやインテリアショップなどそれぞれ経営してる友達がいたので店舗が休みの日を間借りさせてもらうことになりました。土日はインテリアショップ、水金はカフェ、月木がバーという感じでグルグル回りながらやっていたのですがこの時はすごく大変な時期でした。靴を預かってもお店に置いておけないので自宅に持ち帰らないといけなかったり集客に悩みお客さんが来ない日も沢山あったりしながら3拠点での営業を半年間続けました。

そんな中で靴磨きを続けていくか迷っている時にPENTA(広島にある靴修理店)の店主山﨑さんに相談したんです。PENTAは私が92時代から知っていてPENTAのYouTube企画に呼んでもらったり修理でもお世話になってたので相談したところ「ウチでやりなよ」と言ってくれたので2023年の3月からPENTAさんの店内で靴磨きをするようになりました。

いまはOwnskinって屋号でやっているのですが、意味としてはOwn”自分自身”Skin”肌”という意味なので”自分のお肌を労るように革物も労わって欲しい”という願いを込めて名前をつけました。

・珠凛明さんの靴磨きのこだわりはなんですか?

う〜ん、そうですね。私はデリケートクリームをよく使うんです。サフィールのデリケートクリームの使い心地が好きなんですがシワの部分がひび割れてしまうのでしっかり保湿してあげたいっていうのと革がモチモチをしてくるので、そのあとに油性クリームか乳化性クリームを塗っています。手で触った時のモチモチした感じを大切にしているので靴の状態や革によってクリームを塗る量は変えています。

クリーナーはサフィールのレノマットや、ブートブラックのハイシャインクリーナーを使っています。革を痛めないようしっかり取るようにしています。鏡面磨きに関しては全体のバランスを気にしています。私が好きなのはかかとからサイドにかけてのグラデーションなのですが、少しメイクっぽい感じがあると思います。

カウンター磨きでのお客さんは若い人が多くてよく恋愛の話とかします(笑)女性だったらこうだよ〜みたいな恋愛アドバイスとかしつつ磨いてますが、靴の仕上がりに関しては鏡面するかしないかを聞くくらいで「あとは私に任せて〜!」って感じで磨くことが多いです。笑

・今までに印象的だったお客様や靴はありますか?

えーなんだろう、、、そうですね。Instagramで私のことを知ったのがキッカケで革靴に興味を持って靴を買って来てくれたりするのとかめちゃくちゃ嬉しいですね。あと靴磨き職人という職業を知って靴修理屋に転職したり靴磨きを始めた方もいて、そうやって私と出会うことで人生が変わるっていうのがびっくりします。転職したのを報告しにわざわざ大阪からきてくれたりとか。pentaの山﨑さんや私に会いに来てくれるだけでもとても嬉しいです。

・女性に靴磨きを興味持ってもらうにはどうしたら良いと思いますか?

まず女性の靴磨き職人って意味で言うと、この業界で女性で目指すべきロールモデルがいたら増えていくかなって思います。この仕事で食べていけるんだ〜っていうのも含めて。時々靴磨きをやりたいという女性からDMなどいただくこともありますがその時は”独学は難しいのでどこかで働いた方が良いと思います”ってお伝えしています。稀に私に「教えてください」って方もいますが丁重にお断りしてます、「私は自分に必死で教えられません」って。笑

女性のお客さんを増やすっていうのは難しいかなって思っちゃいます。。。実際私もですが女性は他にお金使うことが多いので(笑)絶対的に優先順位が低いんです、、、美容とかファッションとかよりも上にするのって難しいな〜って思います。どうしたらいいのかなぁ(笑)女性ってネイルに行くとパーツや色を選んだりお話ししたり毎月の楽しみの1つになったりするんですけど靴磨きもきっとネイルみたいに”楽しい!”ってなれば増えるかもしれませんね。

・今後の展望はありますか?

特に目標を立てている訳ではないですけど靴磨き職人として技術もしっかりある、知名度もあるかっこいい職人を目指しています。職人でありつつSNSではインテリアを中心としたライフスタイルを発信しているので”インフルエンサー”としても活躍している唯一無二の面白い人になりたいです。自分のお店は持たないんですか?とよく聞かれるのですが私、独立したての時お店に一人でいる半年間を過ごしてて寂しかったんですよ。なので一人でお店はやりたくないんです。笑

でもこの仕事は大好きなので出来る限りずっとやっていきたいなと思っています。私が辞めるときは一人になった時ですね、きっと。笑

靴磨きで一番のモチベーションは「楽しい!」です。靴が綺麗になって喜んでもらえるっていうのが楽しいし嬉しいんです。あとは、今まで傷補修はやってなくてPENTAにきてやるようになったので苦戦はしていますが色合わせや傷補修など磨き以外の技術も上手くなっていたりしていくと楽しいです。とりあえず今の1番の目標は女性靴磨き職人、初の優勝です!!!頑張ります!!!!

お話をしていると今時の女の子という雰囲気ながら常に率直で嘘のない言葉で話してくださったのが印象的でした。自分のやりたいことに素直に向き合い、歩む道を選んできた珠凛明さんは芯の太い男気のある職人だと思いました。見た目とは裏腹なギャップがまたファンが多い理由ですね、ぜひ皆様も広島にある店舗に磨きに恋話にとお伺いしてみてはいかがでしょうか。