「長谷川裕也の熱烈靴磨き道場」其の拾

シリーズでお届けする「長谷川裕也の熱烈靴磨き道場」。第10回目は、靴磨きをする上での「第7、8工程目」について。長谷川裕也が熱く語ります。

靴磨きについて世界一丁寧かつ情熱的に指南することを目指している“長谷川裕也の熱烈靴磨き道場”ですが、最近はなんでも動画で学ぶ方が多く靴磨きもまたYOUTUBEで勉強している方が多いのが実情です。本やラジオ、レコードなどアナログなものを愛する私としてはぜひ文章を読み頭で考えて実践するというプロセスを踏んで成長してもらいたいと思っています。

そこで出てくる疑問に関しては動画や実際に職人に磨いてもらうことで一気に解決します。それが大切なのです。知識と技術の染み込みが違います。染み込みと言えば今回は第7工程目にあたる「クリーム塗布」について詳しく指導いたします。このクリームが革にとって寿命を延ばすとても大切な栄養補給ですのでどれだけ革にクリームを“染み込ませることが出来るか”というのが肝になります。それを踏まえて今回のクリーム塗布を学んでいきましょう。

まずクリームについて。靴に塗る栄養クリームは大きく2種類“乳化性クリーム”と“油性クリーム”があります。“乳化性クリーム”は簡単に言いますと水と油を混ぜた(乳化させた)クリームなので革に水分と油分を与えることができます。一般的にはこちらのクリームが多く使われており革が瑞々しく健康的な光沢が出てとても気持ちの良い艶が出ます。靴の寿命を延ばす上でもとてもおすすめのクリームです。Brift HのTHE CREAMもこの乳化性クリームです。

“油性クリーム”に関しては油脂とロウ、そこに溶剤が入ったオイリーなクリームです。コッテリとした使用感のものが多く、革に油分を与えツヤを出すには最適なクリームです。またオイルドレザーなどには特に相性が良いので愛用者も多いですが、水分がないために長く使用している少し革がごわっとした重たい雰囲気になってきます。瑞々しいナチュラルな感じというよりは漆塗りのような感じでしょうか。

上記の特徴を踏まえた上でクリームを選びましょう。また併用しながら交互に塗るのもおすすめです。前回は乳化性を塗ったから今回は油性を塗ろう。といった具合に色々と試してみるのも一興です。

では早速このクリームをどう塗っていくのか?
一般的には『ブラシで塗る』『布で塗る』『素手で塗る』のどれかだと思います。どんな方法でもクリームを塗ることはできますが、一番効果的なのは間違いなく『素手で塗る』です。なぜなら序盤で述べたように、大切なのは革へクリームを浸透させることなので体温で温めながらクリームを塗り込むのが一番革に浸透して深く染み込んでいきます。きっと柔らかくなっていくのが肌で感じれると思います。

クリームを一度に取る量はコーヒー豆一粒くらいの量です。それを踵からじっくり染み込ませるように塗り込んでいきます。革をマッサージするように塗り込んでいきます。塗り込んでクリームがなくなったらまた同量を塗り込んでいきます。特に履きジワになるヴァンプ部分は入念に塗り込みましょう。この部分が硬化するとひび割れの原因となりますので一番柔らかくしておきたいところです。

しっかりクリームを全体に塗り込んだら次はコバにもクリームを塗り込みます。隙間が埃が溜まりやすく、またこの部分も革でできているために栄養補給をしてあげましょう。特に土踏まず部分は汚れやすいので奥まで入念にクリームを塗り込んでください。

全体にクリームを塗ったら豚毛ブラシでクリームをより革に馴染ませていきます。毛が硬くコシのある豚毛ブラシはクリームを馴染ませるのにピッタリで、クリームの色ごとに揃えておきましょう。

コツはズバリ力いっぱいにブラッシングすること。天然の毛であれば革を傷つけることなく刺激を与えることで革がふっくらしてきます。イメージは布団を天日干し後に布団叩きをするとふっくらしてくるような感じです。特に履きジワ部分はシワに沿ってブラッシングをすると履きジワが薄くなってくるのが実感できると思います。

ちなみになぜそんなに力いっぱいブラッシングしても革を痛めることがないのか?それはきちんと摩耗していくからです。ナイロンブラシなどの化繊を使ったものだと摩耗せず毛が広がっていく上に革に傷をつけてしまう恐れがあります。

豚毛などの天然毛のブラシはその点は安心して使えます、下の写真がその証拠ですが左のブラシは10年ほど使用したもの。毛が広がらず摩耗しているのがよくわかります。

靴も道具も育てるというような感じでしょうか。これくらい使い込むと毛自体にもクリームが浸透しており何もつけずにブラッシングするだけでもツヤを出す魔法のブラシのようになります。靴磨きの楽しみも倍増ですね。

はいっ!!というわけで今回は第7工程の「クリーム塗布」からの流れで第8工程の「豚毛ブラッシング」までお話ししました。靴磨きの工程の中でこの2つの工程が靴の寿命を大きく変えていく部分ですのでぜひ皆様にはこの部分をしっかり実践していただきたいと思います。革がふっくら柔らかくジューシーになっていくのが分かるでしょう。

次回は第9工程の「乾拭き」になりますが、それだけだとすぐに終わってしまうので第10工程の「ワックスのベース塗り」まで指南していこうと思います。いよいよ全行程の後半戦に入ります。次回もみなさんお楽しみに!!押忍押忍押忍!!!

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